はじめに
「小さな政府」を目指して、小泉政権の手により、一連の構造改革が進められている。大きい政府を改めることは、市民が社会の形成を担っていく時代の到来を意味している。
小さな政府の下における行政機関の社会での役割を考えた場合、今後は行政機関と住民や住民団体との協働により、より住民参加型で効率のよい働き方が求められるだろう。具体的には、公務の民間開放、市場化テストなど、それを後押しする仕組みがあり、すでに動き出しているものもある。
これからの住民参加型行政において、公務員にも、公務員個人の行動と所属する組織としての社会的責任を強く果たすことが求められる。こういった動きは、民間企業では、すでにCSRという概念で取り入れられている。
本稿では、CSRの概念について簡潔に述べた上で、なぜ行政機関が改めて「社会的責任」を果たすことを求められるのか、かような状況で求められる「人財」像を述べる。
1.CSRとは
CSRとは、Corporate Social Responsibilityを略したもので、「企業の社会的責任」と訳されている。
2003年3月に、経済同友会からCSRについてのガイドラインが公表されて以来、大企業を中心とした多くの企業で、広く社会的責任を果たすための活動の中核として、CSRへの取り組みが積極的に行われている。
CSRへの取り組みは、日本企業だけにとどまらず、世界的に広がっており、2004年6月のISO(国際標準化機構)の国際会議で、「ISO/SR」として、CSRのうち“SR”すなわち“社会的責任”の規格化が決定した。
これを受けて、イギリス、フランスなどでは、国が産業政策としてCSRを推進している。日本でも、経済産業省が財団法人日本規格協会に設置した「CSR標準委員会」を「ISO/SR国内対応委員会」に改組し、国際規格化された社会的責任への対応を進めている。
2.CSRの定義
谷本寛治編著『CSR経営』(中央経済社)では、CSRは以下のように定義されている。
「企業活動のプロセスに社会的公正性や環境への配慮などを組み込み、ステークホルダー*1に対しアカウンタビリティー*2を果たしてゆくこと。その結果、経済的・社会的・環境的パフォーマンスの向上を目指すこと。」
*1:ステークホルダー…企業にとっての利害関係者を指す。顧客、株主、従業員のほか、取引先、地域住民、求職者、投資家、金融機関、政府など、ありとあらゆる企業に関わる主体が含まれる。
*2:アカウンタビリティー…行政・企業などが社会に対して事業内容や収支の情報公開をする責任。説明責任。
現在の企業は、ステークホルダーと共存共栄し、ともに喜びを分かち合う存在でなくてはならない。ステークホルダーを無視した企業だけの発展は認められないし、逆に企業を犠牲にしたステークホルダーの発展も考えられるものではない。企業と彼らはともに支え合い、ともに発展を志していかねばならないのである。
そのためには、企業は(健全な発展を阻害する)不祥事を未然に防ぐことはもちろん、積極的に社会に貢献してゆくことが求められている。
3.CSRの4つの責任
CSRを構成する要素として、次の4つの「責任」がある。
@ 法的責任
社会的存在として認められた企業が果たすべき最低限度の責任であり、コンプラ イアンスの励行などが該当する。
A 経済的責任
企業を取り巻くステークホルダーに対する経済的責任である。株主への配当などが該当する。従業員に対する報酬支払のように、法で定められた最低賃金の保証が要件となった@を含めた責任もある。
B 倫理的責任
法律の規制を超えたところでの業界や企業独自の倫理観に基づく自主基準や自主規制による責任である。この責任はかなり幅広いもので、以下の3領域に区分できる。
ア. 人権・労働環境の領域
育児・介護への支援、男女共同参画推進などがある。
イ. 消費者対応の領域
お客様相談センターなどの活動、返品自由な保証の実施などがある。
ウ. 地球環境保護の領域
環境ISOの導入、グリーン購入法の遵守などがある。
C
社会貢献的責任
消費者利益の保護、社会貢献・文化支援活動への取り組みなど、積極的な社会貢献活動をバックアップするものが該当する。
これらの責任のうち、@とAは当然果たすべき義務であり、BとCは、そこで何を行うかが、限りある経営資源を投下する領域を決めることから、経営戦略を左右する重要な存在となる。
4.行政機関もCSRを求められる時代
行政機関は、その存在や行っている行為自体に公共性があるために、「社会的責任」といわれてもピンとこない方も多いと思う。しかし、このような主張は、CSRの本質を誤解しているから生まれたものといえる。CSRの本質は「ステークホルダーごとにどのような議論がなされているか」にあるからである。
例えば、納税者、職員、受益者、取引会社など、さまざまなステークホルダーに対して、常に適切な対応ができているだろうか? ほとんどの場合「できています」という答えが返ってくるだろうが、内心は「本当はできていない」と考えざるを得ない場合も多いのではないだろうか。
ISO/SRの制定に代表されるように、社会全体で「社会的責任を果たしていこう」という機運が高まっている。当然、行政機関も無縁ではいられなくなる。
まずは、日常業務の中で接している一番身近なステークホルダーの方々、すなわち同僚や上司、部下に対して、「自分が(彼ら)ともに生き、ともに喜びを享受できる存在であるか」を、再確認してみたい。このマインドが徹底でき、もっとも重要なステークホルダーである住民からの満足を得られる人材こそが、これからの時代の「誇りある行政機関」を支える“人財”といえるからだ。
参考文献: 日本経営倫理学会CSRイニシアチブ委員会著・水尾順一他編『CSRイニシアチブ』日本規格協会 2005年5月
最後に、本稿をまとめるにあたり、上記参考文献の筆者の一人であり、早稲田大学客員教授・中小企業庁技術課長の後藤芳一氏から有益な助言をいただきましたことに対し、深く感謝申し上げます。