(2006年 3月)

執筆者:西山 昌慶(MBC総研)

 

組織力強化の基本三要素

 1.はじめに
 私の経営支援領域は、「医薬品のGMP(Good Manufacturing Practiceの略)」という特殊な分野である。GMPは、製造管理 及び品質管理の基準に関する規則の別称として、産官学で用いられている用語である。このGMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)の遵守に取 り組む企業及びその組織に対し、直面する障害をどのように 解決するかという視点で支援をしている。その経験から学んだことは、多くの組織に共通する問題が存在するということである。共通問題だけに、起こりやすく、変え難いことも理解できた。
 それは、GMPの技術的な問題ではなく、組織経営の問題である。私は現場の声を聞いて、組織を経営する基本の重要性を感じたが、GMPの現場だけにとどまらず、どのような組織においても必要なことだと思われる。そのため、「組織経営」にとって重要と考える三つの要素をあげてみたい。

 2.組織力強化の基本三要素
 三つの要素とは、「経営理念とビジョン」、「管理サイクル」、「報・連・相」である。この考えに至ったのは、「基本に戻り、シンプルに考え、力をつける」という観点で、 "BACK TO BASIC(基本に返れ)"を志向したからである。あまりに多くの情報が氾濫し、かえってノウハウが多くなりすぎたためにコントロールを失っている組織が多いのではないかと考えた。そこで、組織の各階層が行うべき実務から比較的重要でないものを取り除き、最後に一つだけ残す作業を行った。その結果、前述のものを最も重要な「組織力強化の基本三要素」として残した。結局、新鮮な理論やハウツウは残らなかった。古典的であるが、これが組織経営の根幹と考える。
 ここでは、新たな戦略・戦術あるいは制度を組織に導入し、 成果に結びつける能力を「組織力」と定義する。組織力は、 組織に所属する個人の能力の向上と、個人の能力の発揮による相乗効果で強化される。GMP省令の遵守だけでなく、組織のさまざまな目的を達成するために、この基本三要素をシ ステムとして定着させることを提案したい。

 3.基本三要素定着の要
 組織力強化の基本三要素は、それぞれ次の階層で最も重要な実践と考える。
 (1)経営層:経営理念とビジョンの策定
 (2)管理・監督者層:PDCA管理サイクルによる管理
 (3)一般職員層:報告・連絡・相談の実施

 この中で最も重要な役割を演じるのは、管理監督者層である。管理監督者層は、経営理念・ビジョンを理解し、行動指針を作成し、計画遂行において管理サイクルを回し、報・連・相の仕組みを整えていく立場にある。すなわち、「組織力強化の基本三要素」を定着させるという観点から考えた場合、 管理監督者層の理解と実践が要である。
 管理監督者層は、リーダーシップを発揮し、時にフォロアーシップを発揮して、組織の目的達成のため、常に管理サイクルを回しながら、現場の管理・監督に努めたいものである。

 

(2006年 2月)

執筆者:井上 真伯(MBC総研)

CSR(企業の社会的責任)と行政機関

はじめに
 「小さな政府」を目指して、小泉政権の手により、一連の構造改革が進められている。大きい政府を改めることは、市民が社会の形成を担っていく時代の到来を意味している。
 小さな政府の下における行政機関の社会での役割を考えた場合、今後は行政機関と住民や住民団体との協働により、より住民参加型で効率のよい働き方が求められるだろう。具体的には、公務の民間開放、市場化テストなど、それを後押しする仕組みがあり、すでに動き出しているものもある。
 これからの住民参加型行政において、公務員にも、公務員個人の行動と所属する組織としての社会的責任を強く果たすことが求められる。こういった動きは、民間企業では、すでにCSRという概念で取り入れられている。
 本稿では、CSRの概念について簡潔に述べた上で、なぜ行政機関が改めて「社会的責任」を果たすことを求められるのか、かような状況で求められる「人財」像を述べる。

1.CSRとは
 CSRとは、Corporate Social Responsibilityを略したもので、「企業の社会的責任」と訳されている。
 2003年3月に、経済同友会からCSRについてのガイドラインが公表されて以来、大企業を中心とした多くの企業で、広く社会的責任を果たすための活動の中核として、CSRへの取り組みが積極的に行われている。
 CSRへの取り組みは、日本企業だけにとどまらず、世界的に広がっており、2004年6月のISO(国際標準化機構)の国際会議で、「ISO/SR」として、CSRのうち“SR”すなわち“社会的責任”の規格化が決定した。
 これを受けて、イギリス、フランスなどでは、国が産業政策としてCSRを推進している。日本でも、経済産業省が財団法人日本規格協会に設置した「CSR標準委員会」を「ISO/SR国内対応委員会」に改組し、国際規格化された社会的責任への対応を進めている。

2.CSRの定義
 谷本寛治編著『CSR経営』(中央経済社)では、CSRは以下のように定義されている。 「企業活動のプロセスに社会的公正性や環境への配慮などを組み込み、ステークホルダー*1に対しアカウンタビリティー*2を果たしてゆくこと。その結果、経済的・社会的・環境的パフォーマンスの向上を目指すこと。」
*1:ステークホルダー…企業にとっての利害関係者を指す。顧客、株主、従業員のほか、取引先、地域住民、求職者、投資家、金融機関、政府など、ありとあらゆる企業に関わる主体が含まれる。
*2:アカウンタビリティー…行政・企業などが社会に対して事業内容や収支の情報公開をする責任。説明責任。
 現在の企業は、ステークホルダーと共存共栄し、ともに喜びを分かち合う存在でなくてはならない。ステークホルダーを無視した企業だけの発展は認められないし、逆に企業を犠牲にしたステークホルダーの発展も考えられるものではない。企業と彼らはともに支え合い、ともに発展を志していかねばならないのである。
 そのためには、企業は(健全な発展を阻害する)不祥事を未然に防ぐことはもちろん、積極的に社会に貢献してゆくことが求められている。

3.CSRの4つの責任
 CSRを構成する要素として、次の4つの「責任」がある。
@ 法的責任
社会的存在として認められた企業が果たすべき最低限度の責任であり、コンプラ イアンスの励行などが該当する。
A 経済的責任
企業を取り巻くステークホルダーに対する経済的責任である。株主への配当などが該当する。従業員に対する報酬支払のように、法で定められた最低賃金の保証が要件となった@を含めた責任もある。
B 倫理的責任
法律の規制を超えたところでの業界や企業独自の倫理観に基づく自主基準や自主規制による責任である。この責任はかなり幅広いもので、以下の3領域に区分できる。
ア. 人権・労働環境の領域
育児・介護への支援、男女共同参画推進などがある。
イ. 消費者対応の領域
 お客様相談センターなどの活動、返品自由な保証の実施などがある。
ウ. 地球環境保護の領域
 環境ISOの導入、グリーン購入法の遵守などがある。
C 社会貢献的責任
消費者利益の保護、社会貢献・文化支援活動への取り組みなど、積極的な社会貢献活動をバックアップするものが該当する。
 これらの責任のうち、@とAは当然果たすべき義務であり、BとCは、そこで何を行うかが、限りある経営資源を投下する領域を決めることから、経営戦略を左右する重要な存在となる。

4.行政機関もCSRを求められる時代
 行政機関は、その存在や行っている行為自体に公共性があるために、「社会的責任」といわれてもピンとこない方も多いと思う。しかし、このような主張は、CSRの本質を誤解しているから生まれたものといえる。CSRの本質は「ステークホルダーごとにどのような議論がなされているか」にあるからである。
 例えば、納税者、職員、受益者、取引会社など、さまざまなステークホルダーに対して、常に適切な対応ができているだろうか? ほとんどの場合「できています」という答えが返ってくるだろうが、内心は「本当はできていない」と考えざるを得ない場合も多いのではないだろうか。
 ISO/SRの制定に代表されるように、社会全体で「社会的責任を果たしていこう」という機運が高まっている。当然、行政機関も無縁ではいられなくなる。
 まずは、日常業務の中で接している一番身近なステークホルダーの方々、すなわち同僚や上司、部下に対して、「自分が(彼ら)ともに生き、ともに喜びを享受できる存在であるか」を、再確認してみたい。このマインドが徹底でき、もっとも重要なステークホルダーである住民からの満足を得られる人材こそが、これからの時代の「誇りある行政機関」を支える“人財”といえるからだ。

参考文献: 日本経営倫理学会CSRイニシアチブ委員会著・水尾順一他編『CSRイニシアチブ』日本規格協会 2005年5月

最後に、本稿をまとめるにあたり、上記参考文献の筆者の一人であり、早稲田大学客員教授・中小企業庁技術課長の後藤芳一氏から有益な助言をいただきましたことに対し、深く感謝申し上げます。

 

(2005年 12月)

執筆者:長沼 フミ子(MBC総研)

 

折衝力を向上させる

 1.交渉力が必要とされる背景
 
現在は、自治体でも折衝力の向上が必要だと言われている。折衝力は、交渉力と同じと理解されている。交渉とは 「目的・目標を達成するために意思を交換し合うこと」である。
 では、今、なぜ交渉力が必要だといわれているのか、その主な背景には、次のような環境の変化が挙げられる。

@変化による問題の多発化

 技術進歩革新、少子高齢化、国際化、住民ニーズの多様化など予測のつかなかった変化の激しい時代になっている。人間は自分の価値観や考え方を正しいと信じたい本性があるので、価値観や考え方を変えるのはなかなか難しいものである。すると、変化についていけなくなり、現状とのギャップが起こり、問題が発生したりする。そのギャップを埋めるのに交渉・折衝が頻繁になる。
A地方分権によるアカウンタビリティの高まり
 地方分権によって、住民参加が中心になっている。それにより、住民に対して説明を行い理解と納得を得る必要性が生じている。
B住民との協働による政策づくり
 住民と共に働き、協力して政策をつくることも必要になっている。そこでの、利害関係の異なる者同士の意見の集約などにも交渉力は必須になってる。

 
このような背景から、交渉力の向上が求められているが、交渉の最終目標は合意に達することである。合意を別の表現でいうと納得するということになる。

2.納得についての理解
 
納得には「自発的な納得」と「非自発的な納得」がある。
  「非自発的納得」には、強制による納得と義理人情などがあるが、強制による納得によって従わせても、不平・不満が残り、その後は 交渉者を敵視したり非協力的になる。このため、交渉では「自発的納得」を得るようにしたいものである。この「自発的な納得」を得るための留意点として、次の3点があげられる。

@理性と感情の双方に訴える
A相手の心証を害するような言動はとらない
B相手が感情的に攻撃してきた時には、冷却期間を置く

である。

 また、納得をするためにはそれなりの動機が存在する。交渉の場面では、次に挙げるような納得の動機について理解をしておくことも必要である。

@自分の利益、メリットになる
 人間は損得勘定で、態度、行動を決めることが多いものである。交渉では、提示する条件が相手にとって、どのような利益、メリットがあるかに重点をおいた説得を行うと、大きな動機づけになる。
A社会に役立つ
 人間は「社会に貢献したい」とか「人々のために役立ちたい」という動機により納得すると、その満足感は大きくなるものである。
Bプライドが高まる
 人間はプライドが高められると、うれしくなり心も開かれ、寛大になり物事を受け容れやすくなる。そこで交渉の場では、相手のプライドを傷つけるような言動を決してとらないことである。
C自分の主張、要求が認められた
 人間は、自分の主張、要求が認められると、自分の存在が認められたということになり、それに満足する心理が働く。
D相手が気に入った
 営業担当者が気に入って、製品やサービスを購入することがあるが、これは、交渉者と被交渉者との間に信頼関係が築かれたことによる。交渉では相手との信頼関係を確立することが、きわめて重要である。

 
このような納得の動機を得るためには、説得する必要があり、説得するためには、理性に訴える話し方と感情に訴える話し方の双方を用いることが重要になる。

 交渉は相手を打ち負かすことではなく、お互いに納得して満足できて成功したといえるものである。交渉力を向上するためには、相手の心理的な側面を理解し、効果的な話し方や態度を習得することが望まれる。しかし、何よりも重要なのは、相手の人格や人間性を重んじて接することと言えるのではないだろうか。
 
(2005年 11月)

執筆者:大嶋 碩郎(MBC総研)

 

ニート問題を考える

1.増え続けるニート
 
統計によっては、40万人とも70万人とも称される。ニートといわれる一群の若年者層のことだ。ニートは、1999年に英国の内閣府が作成した調査報告書がその用語の元である。いわゆる「学校に通っておらず、働いてもいず、職業訓練を行っていない者」の表現の頭文字(NEET)をとった。わが国には、ニートと銘打っての統計はない。労働経済白書では、このニートに該当する若年無業者の定義として、「非労働力人
口で家事も通学もしていない若者(年齢15歳〜34歳)」とした。集計すれば2004年では64万人に上るという。
 ところが、同じ定義で国勢調査結果から抽出した場合、70万人を越えるとの説もある。70万人は全人口の約0.5%とはいえ、近似した年代の25歳〜34歳人口(約1870万人:平成13年3月末)比では一挙に3%台の半ばまで上昇する。加速の一途を深める高齢化社会を支えていくべき年代の徴候と考えれば、他人事として見過ごせるものではない。

2.ニートはなぜ出現したのか?
 
国勢調査の定義で試算すれば、2000年代入ってから、ニートは急増した。原因は社会学者の玄田有史さんや、精神医学者の香山リカさんなどにより、経済、社会、学校、教育、家庭の各側面からさまざまに論じられている。だが、決定打はない。ニート研究で著名な玄田有史さんでも、ニートの問題の根は複雑に絡み合っていると言う。長かった不況の影響があげられる場合もある。汗水流して働くことの大事さを、本来は子に説くべき年齢層が、社会や家庭内において、その影響力が失われてきたということだ。
 (財)生命保険文化センターが、平成14年3月に発表した「生活者の価値観に関する調査」では、生活者の価値意識で顕著な傾向が認識されている。若年層を中心に、自己中心、自己努力回避の傾向が見られた。生活価値観の中で、快楽志向、安直志向と呼ばれる一群の傾向である。例えば、努力や訓練を避け、楽に暮らしたいという意識を持ち、責任や努力・訓練に対する回避意識が強い、現在生活における楽しみや遊びを重視するなどであった。以前は、このような傾向を刹那的と称した。だが、現在、「刹那的」という言葉の意味すら知らない若者も多い。同調査で見られた若年層(15歳〜30歳過ぎ)で増加しつつある傾向は、間接的にニート増勢の傍証となるものであろう。

3.我々の世代がなすべきこと
 
やりたいことが見つからないから、自分探しをしたいからといって、就業しない者もいるといわれる。数回の就職面接の失敗で、引きこもるケースもあるという。彼らは上下関係を含むコミュニケーション形成への不安が強く、極端に傷つきやすい。それがかえって就業への過剰な焦りにもつながっている。
 では、我々は彼らにどんな支援の手を差し伸べるべきなのか。我が身を省みて、就職に際して、確固たる信念をもっていた人がどれだけいただろうか。ニートといわれる人たちへ、キャリア形成や就業コンサルを行う場面では、説教や過去の成功体験は意味を持たない。職についてからでも、やりたいことは発見できる。だからまず就職してみようと、人生の先達として自信をもって告げよう。同時に、企業であれ、行政であれ、さまざまな就業体験、インターンシップの機会を積極的に提供することが重要な方法だ。現在、さまざまな自治体でも、中学生の就業体験事業が進められている。そのことが、今後は社会的責任として求められる時が必ず来ると思う。                                         
 

出典:平成17年労働経済白書

(2005年 10月)

執筆者:田中 浩(MBC総研理事)

 

ビジョン(夢)の共有化が組織の活性化につながる 
 〜旭山動物園の成功例〜

1.旭山動物園は年間100万以上の集客を誇る

 先日、北海道旭川市にある旭山動物園に出かけた。夏休みの期間であったせいか、園内は家族連れを中心に賑わっていた。人気のあざらし館、ほっきょくぐま館、ぺんぎん館、おらんうーたん館は、かなりの集客があった。特にアザラシが円柱の水槽を通る姿、ほっきょく熊が水に入る姿は、迫力があり、子供はもちろん大人にも楽しい演出であった。
 旭山動物園は、動物本来の姿を見せる行動展示というやり方を開発して、年間約100万人以上を集客し、月間ベースでは日本一の来場者を数えるときもある。これは旭川市の経済効果にも関与しており、地域の観光スポットの目玉でもある。
 私が訪れた翌日、地元テレビ番組に旭山動物園の飼育担当者が出演していた。司会者が、「入場者数が増加して、動物達はストレスが溜まるのではないですか」という質問をした。 それに対して、担当者は、「人が動物を見ているのではなく、動物が人を見ている展示方法なのでそんな事はないと思いますよ」との返答があり、従来のやり方とは違う点が印象的であった。

2.旭山動物園は廃園の危機があった

 従来のやり方、方法に固執しない柔軟な発想やアイデアは
どこから生まれたのか。それは旭山動物園の歴史からその理由が読み取れる。
 この動物園は1967年に開園した(初年度45万人の入園)が、1996年度には様々な原因から26万人に落ち込んでしまい、周囲からは市のお荷物として、廃園の声も上がるほどであった。当時、市の補助は年間4億円前後もかかっていた。
 その数年前から当時の飼育係のメンバーを中心に、こんな施設を造りたい、という動物園の夢を14枚の絵にして、語り合っていたという。また、お金がない状況の中で、自分達でできることから実現していった。合わせて、動物園の存在の必要性を周囲に訴求していった。このような努力と知恵によって、当動物園は復活を遂げたのであった。

3.ビジョン(夢)の共有化が組織の活性化につながる

 MITのP.センゲ教授は著書「最強組織の法則」(徳間書店)でラーニングオーガニゼーション(学習する組織)という概念を提唱した。現在注目されているマネジメント、リーダーシップの手法の多くは、この概念を踏まえて作られている。例えば、コーチング、エンパワーメント、SLリーダーシップなどは前提として、ラーニングオーガニゼーションの考えを理解しないと成果は期待できないと言われている。
 センゲ氏は、この概念を5つの項目を挙げて説明している。

@自己実現−自己を高めるために、目標を立て深めていく自己深耕
Aメンタルモデル−自己の革新や業務に変革を妨げる固定概念の排除
B共有ビジョン−達成すべき将来のイメージを共有するための共有ビジョンの確立
Cシステム思考−全体の業務のパターンを明確にし、目には見えない相互の関連を把握していく思考
Dチーム学習−メンバー同士が対話から共同思考の状態を作り出すことによって、成長を実現していくこと

 上記Bの共有ビジョンこそ、旭山動物園のスタッフが14枚の絵を描いて語り合ってきたことであり、職場で活用できるマネジメント手法の一つである。ビジョンとは、実現可能な夢、将来の方向性を示すものであり、メンバー間で共有することは、職場の活性化につながる。
 自治体の場合においても、住民のニーズに対応するため、組織として何ができるか、何をしていきたいか、を出発点にビジョンを考えていく。これによって、組織の方向性が明らか になり、職員同士で夢を分かち合うことが可能になる。
 旭山動物園の成功例から「何を学んで何をどのように実践していくのか」を考えることは充分に価値あることである。

参考図書・多田ヒロミ/ザ・ライトスタッフオフィス編著
    『日本一元気な動物園』小学館刊
 
(2005年 9月)

執筆者:鴨志田 栄子(MBC総研理事)

 

お客様に支持されるとは
〜米国CS(Customer Satisfaction:顧客満足)視察より

 2005年7月9日から17日まで、佐藤知恭氏を団長とする「米国CS経営最前線検証ツアー」に参加した。同氏はベストセラーである「顧客満足ってどうやるの?」や「あなたが創る顧客満足の基本」などCS関連のビジネス書の著者でもある。本ツアーでは、流通業、製造業、卸売業、サービス業、行政体など10社ほど訪問し、各企業・組織の実践的な取組みについて視察をさせていただいた。いずれも参考になる点が多いが、その中から2つほど以下に紹介する。

1.危機意識を持って自ら変わること
    (リバーサイド市電気水道局)

 「市民は社員であり、また株主でもある。その市民に対して、きちんとしたサービスを提供しなければ、市民は離れていってしまう」これは、プレゼンをしてくれた顧客サービス部長のクリステイン・スパさんからの説明であった。10年前にこの水道局に民間企業から顧客サービスの専門家としてスカウトされたときはまだ電気水道の自由化が始まっていなかったが、いずれ自由化になるという先見と危機感から、このような意識を持ち始めた。
 「自由化を待ってからでは遅い。社員である市民とのよい関係を維持することが経営に求められる課題である」そのために、職員へのマーケティング活動を重視した。同局では、市全体のコールセンターの構築に主導権を発揮しようとしている。現在、市民は市に問い合わせをする時には、それぞれの担当局の100もの電話番号を調べて電話しなければならないが、その一括窓口として同局が対応し、市民の問い合わせ対応を最終的に「311」に一本化しようというものである。
 問合せ受付後の市民の声に対する対応は各部署と連携を図っていく。そのため、市および職員に対して、コールセンターと各部署の位置づけを理解してもらい、市民に提供する行政サービスの質をいかに向上させていくかという問題意識の浸透を図った。自治体の内部説得のほうが住民を説得するよりもはるかに難しい。今までのやり方を変えることに対する内部抵抗のほうが大きいからである。しかし、職員に対してもその期待を超える対応することでこれらが解決される。職員に対するマーケティング活動は、このために不可欠なことである。
 最後にこのスパさんはこのように締めくくった。「電気・水道の自由化が始まり、組織を変えなければならない理由をならべたてるのは容易である。一番大変なことは自分を変えること、すなわち、組織改革とは自ら変わることである」
 10年前から常に自らが変わることを実践しているその前向きでパワフルなエネルギーは大変参考になるものであった。

2.組織ブランドの浸透(ジェットブルー社)
 ジェットブルー社は、不況が伝えられる米国航空会社の市場で16四半期連続黒字経営をしており、顧客からの支持率もNo.1を獲得している。"We like you, too." ,"Give people more than they expect."を経営理念とし、顧客を大切にする姿勢があふれている。
 この企業の特徴は、「ブランドは顧客の体験を通じて構築される」という考え方にある。フレンドリーなサービス、最新の機体(エアバスA320)の導入、衛星テレビの設置、皮張りのシート、利便性の高いチケット購入システム、待たせないチェックインシステムなど目に見えるものばかりでなく、接客においても"Keep it simple(シンプルに)","Keep it Honest(誠実に)","Keep it real(お客様を知る)","Keep it fresh(常に新しいものを)"のもとに、顧客が求めているものを提供するということが徹底されている。
 これらを通じて、ブランド力を高め、顧客に一度使ってみたい、と思わせる企業像を作り、リピーターとなった顧客が、より深くアプローチしたくなる組織を作り上げている。
 官民問わず、自分が変わらねばという意識をもつ職員が組織に増えることが強い組織を生み出すことになる。行政体においても、「住民満足」を生み出ためには、マーケティング活動を理解し、組織に定着させていくことが必要だと考える。

 

(2005年 8月)

執筆者:手島 伸夫(MBC総研)

 最近、行政に「経営品質」の向上ということが強く求められ始めているのは、住民のニーズの多様化と地方分権が強まる中で、財政の悪化により行政システムの質的変革が不可欠になっているからである。

1)マネジメントシステムと行政品質向上
 それは、従来の行政改革の成果を土台に、これまで以上に目的志向や住民(顧客)志向を明確にした上で、その改革を個別の事業の改善だけでなく、組織全体の革新にする必要があるからである。そのために有効なマネジメントシステムを利用して、効率的に経営品質の向上を図る例が見られる。
 その代表的なマネジメントシステムが「バランススコアーカード」や「ISO9001」あるいは「日本経営品質賞」などである。

2)ISO9001とは何?
 ISO9001では、「住民(=顧客)満足のために何をするべきか」というサービス品質に関する要求が約136件、規格化されており、審査でその基準を満たしていれば認証される。
 ISO9001は次の8つの基本原則の基に作られている。

@ 顧客重視
Aリーダーシップ
B人々の参画
Cプロセスアプローチ
Dマネジメントへのシステムアプローチ、
E継続的改善
F意思決定における事実に基づくアプローチ、
G供給者との互恵関係


 しかし、これを「日本経営品質賞」のフレームワークと比較すると、目的としているところが同じ経営品質の向上であることが分かる。「日本経営品質賞」の審査視点は、次の8項目である。

@経営幹部のリーダーシップ
A経営における社会的責任、
B顧客・市場の理解と対応
C戦略の策定と展開
D個人と組織の能力向上
E顧客価値創造のプロセス
F情報マネジメント
G活動結果


 これら2つのマネジメントシステムの原則が似ているのは、日本経営品質賞はアメリカの国家経営品質賞であるマルコム・ボルドリッジ賞(MB賞)の日本版であり、また、ISO9001も現在利用されている2000年版という規格がMB賞の影響を強く受けているからである。

3)ISO9001と日本経営品質賞との違いは?
 同じ組織改革のツールであり、顧客満足を目的としたISO9001と日本経営品質賞との大きな差異は次の点にある。
 ISOは、やるべき要求事項が細かく決められており、それに対して一定水準に達しているかを認証基準にしている。また、一定期間ごとの審査(サーベランス)が義務づけられている。
 これに対し日本経営品質賞は、「卓越した組織を表彰」しようとするものであり、継続性の審査義務はない。
 また、ISOの審査機関は、日本国内だけでも40以上あるが、日本経営品質賞の審査は(財)社会経済生産性本部だけである。
(ただし、名称・対象地域は異なるが、経営品質賞のシステムを独自に創っているところはある)

4)行政の経営品質の向上とシステムの選択
 マネジメントシステムは、計画(Plan)⇒実行(Do)⇒チェック(Check)⇒是正(Act)というPDCAサイクルを回しながら、目標に向かって継続的改善を行う道具である。その意味では、冒頭に挙げた「バランススコアーカード」や「ISO9000s」または「日本経営品質賞」、以外に「デミング賞」やトヨタ自動車の「ジャストインタイム(カンバン方式)」など、さまざまなシステムがある。
 ISO9001は、行政経営品質向上に利用するには、次の2点に注意が必要である。

@記録や手順を文書化により求める傾向が強く、注意して ないと"紙くず製造運動"になりかねない。
A審査員による審査内容のばらつきが大きいので、審査さ れる側の論理をしっかりしておかないと意図しない作業が増え、住民満足に反することが起きる危険がある。

 しかし、ISO9001は、やるべきことが詳細に要求事項として規格に明確にされていて、使いやすい利点がある。

 今後、各行政組織においてマネジメントシステムの選択に当たっては、目的や組織特性にあった利用が必要である。

 現在、私どもMBC総合研究所では、内閣府経済社会総合研究所の「行政経営品質セミナー」に参加するなど、今後もさらに研鑽を重ねていく所存です。
 
(2005年 7月)

執筆者:一瀬 章(MBC総研理事)

地方自治体の目標・成果の考え方について


 最近、地方自治体において公務員制度改革の影響もあり、「目標による管理」「人事評価制度」の研修を実施する機会が増えている。その際に「目標や成果をどのような視点で設定や評価したら良いか悩んでいる」と質問されることが多い。住民に直接サービスを提供する職員の場合は、住民満足の向上を指標として考え目標や成果の設定がしやすい。しかし、間接業務や職員にサービスを提供する職員の目標や成果が、何を基準にどんな視点で設定したら良いかわからないとのことである。そこで、最近地方自治体でも少しずつ取り入れはじめている、バランス・スコア・カード(以下BSCと略す)の4つの視点から地方自治体の成果・目標についてどのように取り入れたら効果的かを解説する。
 BSCとは、多元的視点からビジョン・戦略・目標を、重要な経営指標へと定着させる経営管理の考え方、ツールのことを指し、90年代初頭に米国のR.キャプランとD.ノートンにより提唱された。「バランス」という言葉は、財務的業績評価指標と非財務的業績評価のバランス、さらに外部的視点と内部的視点のバランスを意味している。スコアとは成績を意味し、戦略やミッションから財務指標の成績目標を定め、それに先行する各視点の先行指標、業績向上要因(パフォー
マンス・ドライバー)を定める。具体的には下記の4つの視点のバランスと成績を重視している。

@ 顧客の視点
A 業務プロセスの視点
B 財務の視点
C 成長と学習の視点

 地方自治体の成果や業績にこの視点を取り入れると、実施すべき方向性が見えてきて、目標や成果を明確にしやすい利点がある。以下に具体的に説明する。

(1)顧客の視点
 地方自治体にとっての顧客の視点とは、住民の視点になる。ここでの住民とは、居住住民、勤務住民、観光等で訪れる住民と範囲が広い。また、その役割は、受益者、納税者、主権者、パートナーと複雑である。単純に定義することはむずかしいが、地方自治体がこれらの住民の満足度を高めるために、どのような行政サービスを提供すかの視点で、目標や成果を設定する。

(2)業務プロセスの視点
 業務プロセスの視点とは、実施すべき業務をいかに効率的に行うかの視点である。職員が実施すべき業務の時間短縮、成果目標のより高い達成、少人数での実施などを成果や目標として設定する。

(3)財務の視点

 財務では、経常収支比率、公債費比率、財政力指数などの財政指標から健全な財政運営を成果や目標とする大きな視点がある。さらに職員の業務レベルでは、「最少の経費で最大の効果」(地方自治法2条14項)を上げる業務を実施できたかの視点がある。業務実施時に、できるだけコスト削減し成果や目標を達成したかを評価することである。

(4)学習と成長の視点
 学習と成長の視点は、地方自治体の組織と職員の学習と成長の視点として捉えることができる。どのように人材を育成し、成長させたかを成果や目標として評価する。さらに、組織としていかにノウハウの蓄積や組織改革や風土改革の実現できたかを成果や目標とする視点である。

 BSCはこの4つの視点は、お互い相反する内容でもある。住民満足を高めすぎると財政的に厳しくなるかもしれない。また業務を効率化しすぎて住民サービスがおろそかになる可能性もある。そこで、地方自治体では、これら4つの視点のバランスを取り、効率的な運営し、目標や成果として取り入れることが求められる。
 
(2005年 5・6月)

執筆者:志磨 宏彦(MBC総研専務理事)

 

公務員制度改革再始動後の人材育成のあり方

 5月23日に人事院から国家公務員の給与構造改革の全容が発表された。そもそも公務員制度改革は、平成13年12月25日に行政改革推進事務局によって発表された「公務員制度改革大綱」に基づくものである。その中で、新人事制度に関するものを確認しておくと以下のような柱であった。

(1) 能力等級制度の導入
(2) 能力等級を基礎とした新任用制度の確立
(3) 能力・職責・業績を反映した新給与制度の確立
(4) 能力評価と業績評価からなる新評価制度の導入
(5) 組織目標の設定及び行動規準の確立
(6) 人材育成を図る仕組みの整備

 公務員制度改革は、民間並みの人事制度を構築するものとして期待されたが、労組側の抵抗等があり、なかなか進まない状態であった。今回の改革案は給与に関するものであるが、全体の議論を進める突破口的な意味合いがある。したがって、給与改革が進展すれば地方公務員への影響は必至である。しかし、第1回のMBCマンスリーコラムで代表理事宮本邦夫が指摘したように、給与制度の改革に目を奪われてしまって、トータルな人事システムの構築を怠ると、公務員制度改革の波に乗り遅れてしまう。
 そこで、日頃研修業務に携わっている身として、人材育成について私なりの提言を述べてみたい。公務員制度改革における「(6)人材育成を図る仕組みの整備」のポイントは、「職員の計画的育成」と「職員自らの職務遂行能力の開発・向上」である。すなわち、一般的に言われている能力開発の3要素−OJT、 Off-JTと自己啓発−である。

1.OJTは計画的、意図的、継続的に

  能力開発の基本は何といってもOJTである。日頃の職場における指導の巧拙が育成に大きく影響を受けるわけだが、計画的、意図的、継続的に実施されているとは言い難いのではないだろうか?民間企業では、成果主義を推し進めるあまり、OJTが疎かになってしまい、人材育成が後手に回るという弊害が生まれた。自治体でも同様で、今後新評価制度が導入されると、OJTが機能しない可能性がある。したがって、場当たり的でなく、じっくりと計画を作成し、気持ちを入れて取り組んでいく必要があるだろう。

2.Off−JTはカフェテリア方式で

 民間企業では、Off-JTはカフェテリア方式が一般的になっている。すなわち、Off-JTは自己啓発的な位置づけになっている。お仕着せの階層別研修は姿を消し、職員が目的意識を持って研修を受講している。私が担当している自治体で、民間企業並みのカフェテリア方式を導入している所は少ないが、職員の自主性を引き出すためには、研修体系を特別研修(テーマ別研修)中心に見直しを図る必要があろう。

3.自己啓発は職員の意識改革から

 Off-JTの際にも述べたが、集合研修は自己啓発機会の提供という性格が強まってきている。そこで、有効な自己啓発を促進するためには、研修参加に対する意識づけを上長とともに確認しあい、研修終了後に新たな課題を設定し、それに取り組むといったプログラムの設定をお勧めする。研修の現場でよくいわれることだが、研修効果の持続性をいかに保つかというテーマがある。これについては、研修内容に関して事前課題や事後課題を課すことにかなり違ってくる。あるいは目標による管理とからめて研修効果の持続を図る方法も効果的である。

 以上、述べてきたように、人材育成についても民間企業並みの対応が求められることになると考えられる。民間企業の人材育成についても、失敗例はあるが、効果的な部分は積極的に取り入れて、明日のコア人材を育成していただきたいものである。

(2005年 3月)

執筆者:宮本 邦夫(MBC総研代表理事)

1.独立・独歩の「研修制度」?

 最近、これからの研修制度のあり方について意見・アドバイスを求められることが多い。公務員制度改革をはじめとして、研修・人材育成に係るいろいろな動きがあるために、少しでも情報を収集したい心理はよく理解できる。だが、質問されるたびに気になることがある。それは、多くの担当者が研修に関することしか質問しないことである。研修担当であるから、研修に関する情報だけを収集すればよいと考えているのであろうが、こうした制度は、研修制度を他の人事諸制度と切り離して“独立・独歩の制度”と して捉えており、全体を考えなくて良いのかという疑念が生じてくる。

2.「トータル人事システム」の発想を

 研修担当であるから研修のことだけを考えれば良いというわけにはいかない。というのは、研修あるいは人材開発は、あくまでも人事管理のなかに包摂される概念であり、他の人事諸管理制度との関連性を考慮しなければならないからである。このことは、別の言葉で言えば、研修制度を「トータル人事システム」の一環として捉えるということである。つまり、研修制度の改革・改善を検討したいのであれば、単に研修制度という狭い概念で捉えるのではなく、研修制度に関連する他の人事諸制度のことも検討しなければならないということである。

3.「役割等級制度」をコアに

 「トータル人事システム」的発想で大切なことは、ただ単に関係する人事諸制度を羅列するだけに終わってはならない。重要なことは、そのシステムの核心(コア)になるものを決め、それと他の人事諸制度がどのように関係しているのか、その関連性、親和性を考えることである。コアになるものとしては、いろいろなものが挙げられるが、現時点で最も適しているのは「役割等級制度」であろう。公務員制度改革では「能力等級制度」が挙げられているが、能力のほかに、資質、態度、責任などのコンピテンシーも考慮する必要があり、これらのファクターを包摂した「役割」が最適と判断されるからである。当然のことながら、この「役割等級制度」との関連性・親和性を最重要視して研修制度・人材開発制度のあり方を検討しなければならない。

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最終更新日 : 2007/02/12.